1970年大阪万博(EXPO'70)のパビリオンで上映された、特殊なマルチスクリーンの展示映像の貴重なデジタル復元プロジェクトをご紹介します。
復元作業 1例目
東芝IHI館
『希望‐光と人間たち』の復元
2014年3月1日、東京大学大学院情報学環・学際情報学府 第12回記録映画アーカイブ・プロジェクトで上映された、1970年大阪万博パビリオン映像の復元事例です。
1970年 東芝IHI館
岩波映画製作所の倉庫から東芝IHI館のマルチフィルム原版9本が発見されました。
岩波映画が製作した東芝IHI館の9面による360度マルチ映像作品『希望』は、18分間、これまでフィルム原版が見つからず、“幻の作品”となっていました。ところが国立映画アーカイブの未整理フィルムの中から、35ミリ画原版9缶が発見されました。題名が『希望』ではなく、完成前の仮題名で「東芝GV」と記載されていたため、これまで忘れられていたのです。
9面の35ミリフィルム原版
この作品は9台の35mm映写機をシンクロさせ360度・9画面のマルチスクリーン上映でした。しかし当時の上映形式をそのまま再現することは難しく、今回は9面のうち3面をデジタル化し、3画面での上映を行うことになりました。
9面を同時に編集するため9台のビュア-を連結させて編集する藤久真彦監督
音声は当時16ミリシネテープで別再生されていたため、もともと音のフィルム原版は作成されていませんでした。そこで関係者に呼びかけたところ、企画担当の吉原順平さんが閉館時に配られた記念レコードを保存しており、さらに製作の藤瀬李彦さんが完成台本を見つけてくれました。
音楽レコードと完成台本
復元ステップ
1
フィルムのデジタル化
「本来なら9面(360度分)すべてをテレシネしたいところでしたが、費用の問題もあり、主要な3面(120度分)を復元することにしました。
どの3面を選ぶかは、企画担当の吉原順平さん、監督補佐・編集の坂口康さんに検討していただき、4,5,6面を推薦して頂きました。
編集の石井香奈江さんに原版からのデジタル化と、三画面を1画面に合成する編集をお願いしました。
フィルムのデジタル化・東京光音
復元ステップ
2
画面合成と音入れ
3つの原版から取り込んだ映像を1画面に合成し、レコードからデジタル化した音楽を重ねていきます。
しかし45年前の作品のため、どの曲がどの場面に対応していたか、当時の関係者でも正確には思い出せませんでした。
その時、大きな手がかりとなったのが完成台本でした。そこには音楽や効果音の位置が細かく記載されていたのです。
完成台本に記された音楽箇所
整音は東京テレビセンターOBの甲籐勇さんが協力してくれました。こうして、多くの協力によって当時の映像がよみがえりました。
東芝IHI館『希望‐光と人間たち‐』4,5,6の3画面
ところが、話はそれで終わりではありませんでした。
復元作業から4年後、作曲を担当した故冨田勲さんの娘さんから、「自宅のスタジオを整理中に『希望』オリジナル音源が見つかった」と連絡が入ったのです。
これで音は完全復元が可能になりました。
あとは残る6面のフィルムをデジタル化できれば、完全版が完成します。
復元作業 2例目
自動車館
『1日240時間』の復元
もう一つ復元されたのが、自動車館の映像作品『1日240時間』(30分版)です。監督は勅使河原宏さんでした。
自動車館
この作品は4面マルチ映像で、フィルム原版は残っていたので、デジタル化と画面合成は済んでいましたが、やはり音源がありませんでした。
音源を探していたところ、草月会に保管されていた資料の中から、音源らしき1インチのオープンリールテープが発見されました。
保存されていた1インチテープ
当時の製作スタッフや研究者が記録映画保存センターに集まり、どこに音が入るのかを検討しました。(2014年1月)
友田義行さん、中村紀子さん、吉田栄子さん
残念ながら、1970年に制作されたこの1インチ8トラックテープを再生するデッキは日本には残っていませんでした。
探し回った末、東京の下町にある「レトロ通販」がヘッドの位置を工夫して、音楽と効果音の2トラック分の再生に成功しました。
その音源を製作現場で記録を担当した吉田さんが保存していたカット表を手がかりに、音楽箇所を特定していきました。
編集カット表
オリジナル版で録音を担当したのはアオイスタジオの大橋鉄也さん。
今回整音を担当した甲籐さんにとっては師匠にあたる方でした。
甲籐勇さん
関係者会合、もと画面に音声を編集する井上実さん
『1日240時間』の4画面 実際には4台の35mm映写機から上映された
復元作業から見えたこと
今回の復元作業を通してわかったのは、映画の復元にはフィルム原版だけでは足りないということです。
音素材、完成台本、カット表など、制作資料、関係者がそろって初めて作品は元の姿に近づきます。
映像復元にはさまざまな方法があります。
しかし、その土台となるフィルムが保存されていなければ、復元そのものが不可能です。
そして、復元作業は時間との闘いでもあります。今回、復元作業でお世話になった方々の多くは既に亡くなられています。
フィルムを守ることは、未来に映像文化を手渡すことなのです。
編集:一般社団法人 記録映画保存センター 2026年